2013年2月より、女ゴコロマーケティング研究所が「女性をファンにするブランド構築」をサポートしている株式会社ニック。
平成9年をピークに毎年減少するクリーニング店の数。家庭消費支出額にみるクリーニング代もピーク時の半額以下に。業界の市場規模が縮小し価格競争に同業他社が疲弊していくなか、安易な値下げではない「顧客にとっての価値」を見つめ直す独自のブランド構築で新たな市場開拓に挑戦している。
プロジェクトが推進されるなか、社長は何を感じ何を考えていたのか? 
株式会社ニック西川社長がホンネで語ってくださいました。

一度の研修で成果を実感し
女性視点の風土への改革を依頼

団塊世代のリタイア、スーパークールビズの浸透など、クリーニング業におけるメンズ品の衰退は早い段階から分かっていました。私は27 年にわたり世界のクリーニング企業を視察し続けていますが、成功している上質なクリーニング店にはいくつかの特徴があり、その一つが「売上の3分の2をレディース商品が占めている」ということです。それに対し、弊社のレディース商品の割合は28%。リーマンショックの前後でも変わらず、です。
日本の社会の流れを洞察し、ニックの強みを考えぬいた末に「ファッションケア」というビジョンに辿り着いたのに、潜在ニーズである女性商品が取りこめていないことが大きな課題でした。想像力を持ってお客様の不安や不満に向き合い、それに応える提案力を育てる。顕在需要である従来の男性市場を維持しながら、女性市場の拡大を図る、これが私の戦略でした。
木田
ご相談をいただいて、ニックさんを知るごとに「この会社はもっと伸びる!」と感じました。品質に真摯に向き合っていて技術力がある、「お客様の気持ちに寄り添いたい」という社長の方針があって、社員さんからも同じ言葉が出てくる。ウソがないなと思いました。何を隠そう、私自身が大切なお洋服を任せたいと思えるお店に出会えていない「クリーニング難民」でした。
クリーニングに出してもどうせ…というような諦めや不信を持っている女性の気持ちがとてもよく分かります。これだけ困っている人がいて、それに応えてくれるサービスがある。女性マーケット拡大と女性活用という女性視点のプロとしてやりがいのある仕事を頂いたと感じるとともに、強い使命感も持ちました。
ありがたいことです。これまでも広告代理店の方などとお付き合いがありますが、クリーニングを必要としていない方のご提案は、きれいなものになっても本物にならない気がしています。やはりニックを分かっている人にお任せしたいですから。
木田さんには、まず「研修」という形でお願いしましたが、その成果が素晴らしかった。店長と女性スタッフがセットで参加してください、というスタイルもこれまでにないものでしたし、女性視点の理解に雑誌を利用するなどした分かりやすいワークショップ形式で、女性に響く伝え方を学びました。研修を終えたスタッフが現場で実践し、すぐに成果を実感できました。ものすごく楽しい上にものすごく価値のある内容でしたね。これは自分たちではできないぞ、と思いました。
そこで、木田さんには時間を埋める研修ではなく、ロングターンで取り組んでいただき、風土改善、習慣や感性を変え、成果を出してくださいとお願いしました。

プロジェクトチーム結成秘話
社長は外れてください…!?

木田
私のように顕在化しているニーズはもちろん、潜在的な「クリーニング難民」はとても多いはず。そのニーズとニックさんのサービスをマッチさせるには、「ファッションケア」という独自の価値観を社内外に啓蒙し行動を促進する「女性視点を取り入れたブランド強化」が必要だと考えました。
プロジェクトチームを結成するにあたり、西川社長からは「会社の将来に関わる重要なプロジェクトなので、私が先頭に立ちます。」とお話しをいただいていました。一方で、現場のスタッフの方に「これからのニックがどうあるべきか」について本音をお聞きしてみると、細かい現場の指揮は自分たちに任せて欲しい、という意見が出てきました。
また、調査を進める中で、現場への指示命令を社長に任せていることで、うまくいかないことはどこか社長を言い訳にしてしまっているという側面も感じました。そこで、社長には重要な局面では随時報告・相談させていただくので、プロジェクトチームからは外れて見守っていただきたい、とお願いしました。
木田さんからのお願い、スタッフの意見を聞いてショックじゃなかったと言えば嘘になります。社長は社長業に徹せよ、ということなんですが、社長業の本質って何だろう?ということまで考えましたね。いかに見守るのかというのは本当に試行錯誤でした。
ただ、これからニックがさらにステップアップするためには、まさに現場のスタッフが自分で意思決定をしていく大変さを経験し、自分で考え行動できるようにならなければいけない、というのは分かっていました。
木田
そうして結成されたチームのメンバーには、「皆さんの希望したことです、社長には外れていただきます。皆さんが自分で考え実行し、そしてその結果に責任を持つのです」と伝えました。「もう言い訳はできない」と。
ただ、最初は発想の転換が難しく、会議をしていてもなかなか踏み込んだ意見は出ませんでした。かなり発破をかけましたね(笑)。
頼もしく成長してくれたと感じています。統括マネージャーたちが自分の責任で行動し発言するようになりました。お陰で今では以前より強いことも言えるようになりました。
先日の総会の後も「社長、思ったことは何でも言ってください!」と言ってくれて、本当に嬉しかったですね。プロジェクトを通じて彼らは「事前準備の大切さ」ということをよく口にするようになりました。同じキャンペーンにしても、トップダウンのものを各店におろしていくのとは違い、自分たちで散々考えたものを「現場に伝える」「現場を動かす」ということで責任感が大きく違っています。
木田
まず市場創造委員会のメンバーの手で、季節ごと・月ごとのお客様の気分、ファッションニーズを洗い出して販促計画を作りました。店長でもない若手社員が作ったこの計画をもとにインナーキャンペーンや情報誌を展開していきました。これまでの上からおりてきたものとは違います。「若手社員がやりたいと言ったことだから、絶対成功させよう、そのためにどんなツールやコミュニケーションが必要か」ということを徹底的にお伝えしました。
インナーキャンペーンの第一弾として取り組んだ「ピュア」が、スタッフの力でこれだけ売上が伸びました。それだけの実力を持っている、ということです。クリーニング業は、お客様が品物をお持ちいただくという性質上、どうしても受け身になりがちです。提案をして断られるのもプレッシャーだし、断られてからの営業という感覚もないですね。インナーキャンペーンで、お持ちいただいた品物に対してプラスの提案は出来るようになってきましたが、まだまだお客様の知らないサービスも多い。例えばお直しや靴・鞄のお手入れなど、取り扱いそのものを知らないサービスをどうお伝えしていくか、このあたりはまだまだ課題ですね。
木田
インナーキャンペーンでは、情報誌や割引チケットなどを用意し、お客様に断られにくい環境をつくり、接客トークも作成しています。こうして成功体験を積んでいきながら、キャンペーンを通して一つひとつのサービスを検証しています。これを全てのサービスに展開することで、まずはサービスレベルの標準化と底上げをはかっています。これを継続し、足元を固めながら、顧客をファンに育てる施策も同時に進めないといけません。

社長が男泣き
スタッフが主役の総会誕生

クレドの完成は、本当に嬉しかったですね。私の理念を分かった上で、自分たちの言葉でここまで作ってきたか、と感心しました。経営者仲間の間でも、行動指針を作りたい、という話はよく出ますが、自分たちの行動は自分たち(スタッフ)の手で決めてもらった方がうまくいくと思います。
木田
プロジェクトの最初から、大上段に構えて「クレドを作成しよう!」では生まれなかったものだと思います。インナーキャンペーンを通じて、「積極的に発信をしたらお客様に伝わる」という成功体験があったことが、クレド作成の素地になりました。さらに、作ったことに満足していては駄目で、どうみんなに受け入れられるかが大事だとお伝えしました。間違っても、完成したクレドを一方的に配布して終わりにはしないようにと。どう現場にクレドを伝えていくか、ということを会議の中でもかなり話し合いました。そこで、メンバーから1店ずつ自分たちが説明をしてまわりたいという声が出ました。
週数回しか出勤しないパートスタッフの方まで全員に集まってもらい、時間をとって伝えていましたね。説明に行く前、本人たちはかなり不安もあったようですが、ふたをあけてみると「今までやってきたことが間違っていないと再認できた」「自分たちの想いをよく形にしてくれた」と現場に受け入れられ、それが自信に繋がったようです。
木田
本当に丁寧に落とし込みをされました。皆さん、相手の気持ちを汲み取る繊細さ、真摯に向き合う謙虚さが素晴らしいです。まさに「お客様の気持ちに寄り添う」お手入れをされているからこそですね。
CIも完成し、各店の看板などビジュアル面も一新していきました。それこそ、ファッションのお手入れ専門店としてリニューアルした最初の店舗で、一気に売上の成果が出ました。コンセプトがCI として表現されたことで、スタッフも変わりました。自分たちのファッションにも一層気を遣うようになったり。CI クレドとが、まさに仏と魂。その効果が総会の雰囲気にも表れていると感じます。
木田
年に2回ある総会が、とてもいい機会になっています。ブランド強化委員会のメンバーから出てきたクレド実現の期間は3年。いかに実現するかを総会の節目に合わせて半年ごとの目標と行動に落とし込み、細かく計画してもらいました。
総会が発表の機会となりそこで手応えを得られています。総会のスタイルを変えることになった初回、私は参加者皆さんに参加していただく「ワールドカフェ」をご提案しました。「これまでスクール形式で店舗ごとに着席していたのに、店舗をシャッフルして丸いテーブルに着いてもらっても緊張して意見なんか出ない」という見方が大半でした。それが予想に反し大変な盛り上がりで(笑)。スタッフを主役にすることでスタッフの方がこんなに元気になるんだとプロジェクトメンバーが実感できました。その次の総会からは総会の運営に積極的に携わり、成果や反応を体感することでプロジェクトもステップアップしてきました。
景気の影響などでこういった社員総会を止めてしまわれる企業もある中、継続されてきた風土が素晴らしいと思います。
ワールドカフェは本当に衝撃でした。スタッフの素晴らしさに感動して、最後は涙が出ましたね。以前は総会も私が仕切っていて、ギリギリまで準備に追われていました。それが今回は直前まで視察旅行に行けたほど。以前の総会では、例えば空調の暑い・寒いなども人任せだった参加者が、今では率先して解決に動いています。成果が出て、私の仕事も楽になって、こんないいことはない!
木田
社長の最後のご挨拶は感極まっての「何も言えねぇ!」のひと言でしたね(笑)。
本当に素晴らしい会社だなぁと私も感動しました。

素地が整ったいま 次なる課題は?

スタイルを変えての総会、3回目あたりから本当にプロジェクトメンバーが変わってきたと思います。しっかりと考えているし、自分が責任を持つ、という顔をして話してくれるので、安心して見ていられます。インナーキャンペーンなどで各店の基準が統一化されてきた一方で、技術面でのさらなるレベルアップも必要です。また、女性の社会進出が進む中、忙しくてお店に足を運べないといった時間的なニーズにも応えたい。時間外お預かりサービスや宅配サービスなどに着手はしていますが、課題はまだまだあると感じています。
木田
集客し定着化させファンに育てるための戦略が重要です。クリーニング業界は季節需要が大きく、一番忙しい時期に一番新規のお客様がいらっしゃいます。
これまでは、忙しすぎて定着のための手段が追い付いていないのが現状でした。プロジェクトでは、販促委員会を中心に計画に基づく先回り提案の強化を進めています。顧客は必ず自然減するものです。新規を増やし続けないとお客様は増えません。
プロジェクトメンバーではない店長から「私もプロジェクトに参加したい」という声が上がっています。統括マネージャーの活躍、そして市場創造委員会の若手メンバーの成長がいい刺激になっているようです。個別の委員会も動いていますが、各店長の強みをもっと活かしてあげたい。
木田
人事面では「輝きシート」の運用が始まろうとしています。
出来ている・出来ていないではなく、前向きな気持ちを汲み、店長がスタッフをよく観てサポートしフィードバックしていこうとしています。店長さんの役割は大きいです。
どれだけ女性スタッフの知恵がでるか、が本当に大事だと思っています。
店長たちは勤続が長く、知識もあるしお客様のことをよく理解していますが、下手をするとカウンターの内側の発想になってしまう。もっとお客様視点をサービスに活かすためにも、女性スタッフが重要です。女性スタッフをいかに活かすかは、中間管理職である店長の役割です。その育成がますます重要になってきます。
木田
バランスが大事ですね。底上げによる標準化を意識しすぎると、理想の形に近づくスピードは鈍化します。今は足元を固めている状態ですが、改善ではなく改革の方向に自分たちの力で動いていけるようにならなくてはなりません。クリーニング難民としては、商圏を飛び越えて日本中のクリーニング難民の皆さんに、ニックさんのお手入れを知って欲しいですね。まだまだ挑戦できることはたくさんあります。
これまでのプロジェクトで、「ファッションのお手入れ専門店」という意識はスタッフに浸透してきました。今後はさらに「お手入れでおしゃれをもっと楽しもう」というメッセージを体現していきたいですね。この価値観は、お客様の笑顔に繋がっていますから。
木田
ニックさんを訪問していて感じるのは、スタッフの皆さんがとてもおしゃれだということ。それはお手入れが行き届いたお洋服を身に着けていらっしゃるから。自分の着るお洋服は、責任を持って一番きれいな状態で着るのがおしゃれ、という価値観がスタッフの皆さんから発信していけるといいですね。
サービス業でお客様の品物を扱っている私たちがブランディングする、ということは、最終的には「人」で決まると思っています。
木田
ロゴマークや店舗外観など、目に見えるものがブランディングで注目されがちですが、私は人がブランドを創ると思っています。地味で時間がかかるかもしれませんが、人が変わらないと意味がありません。人材の教育に時間をかけられてきたニックさんの風土があってこその、本プロジェクトです。
市場創造委員会のメンバーを見ていて、若いスタッフの能力の高さに驚いています。これも嬉しい発見でした。木田さんがプロジェクトメンバーに送るメールを見ていますが、つまずきそうなところを絶妙にフォローされていて、育て方に感心しています。今まさに新しいことに挑戦する素地が整ってきたと感じています。今後もよろしくお願いします。
木田
私自身が心からニックさんのファンになっています。これからもスタッフの皆さんが楽しみながら成長されることを、サポートさせていただきます!


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